ありえねー!!(心臓の弱い人は注意)

夜中3時のこと。居間にいた風呂上がりの配偶者より「ちょっと来てごらん」とダウトミュージック事務所(つまりオレの部屋)にお呼びがかかる。「なあに?」と居間に行くと「ほら」と居間の壁を顎で指す。げ。ゴキブリだった。「なんだよ、叩いて取ればいいじゃん。」「だって私届かないんだもん。」たしかにヤツはオレの頭部より30cmほど上にへばりついており、配偶者の身長ならばジャンプしてやっとというところか。しょうがないのでヤツを見張りつつ配偶者に「コックローチとかあったよね。見張っとくから持ってきて。」とスプレー式のコックローチを持ってきてもらう。いざ戦闘開始だ。とにかくヤツは早い。コックローチのノズルをヤツの至近距離に持ってゆき、一瞬のうちに吹き付け殺傷しなければならない。思いきり近づいた時点で噴射。ヤツも逃げるがこれを逃して見失うようなことがあろうものならオレも今晩眠れない。両者必死の攻防だ。かなりヤツも弱ってきた。スピード感がなくなってきた。ここで一気に噴射して完璧に殺傷だと思ったその時、ヤツは最後の力を振り絞って羽を広げた。飛んだ。オレの方に向かって!!! 「わ、わ、わ、ぎゃ〜〜〜」夜中の3時にオレの断末魔のごとき叫び声が響き渡った。ヤツは弱々しくもオレの腰辺りに向かって飛んできたのでオレは「わーわーわー」と言いながら地団駄踏むようにジャンプしてたりしていた。オレの体にへばりつくと困るのでジャンプしたり手足をバタバタしたり、その間コックローチは噴射したまま。さながら新派閥の前衛舞踏が生まれる瞬間のようでもあった。無意識にそうなってしまった。
ヤツは弱り切ってテーブルの下に赤黒い腹を上にして手足をモジモジさせていた。脳天に血が上ったオレは配偶者に「いまだ、中性洗剤ぶっかけろ」と震えながら指示した。配偶者は「中性洗剤かけるとあとの掃除とかめんどくさいから」などと落ち着き払ってそう言った。「ダメだ。完全に殺傷しないとオレの気が済まん。早く!」配偶者はしぶしぶ台所から中性洗剤を持ってきてヤツにかけた。これで完全殺傷だ。「それは私が処理しとくから、中性洗剤のあと、雑巾で拭いといてくれる? もう私、寝るよ」といかにも迷惑そうな配偶者。「わ、わかった。とにかくヤツは死んだふりとかするからそのゴミを入れたコンビニ袋は完全に密閉して二重にしてゴミ袋に捨てといてくれ。」「あんた、ちょっと大げさなんだよ。こんなのに驚いてたら命がいくつあっても足りないよ。」その後ちょっとした配偶者の説教が続き、ようやく落ち着いたけど、けっこうなトラウマになった。ヤツに飛ばれて向かってこられた日にゃー本当に命がいくつあっても足りない。精神的なダメージが非常に多大である。
東京に住んで26年になるが、こんな屈辱的なというか、おぞましいというか、ありえない体験をしたのは初めてである。(北海道の一般の家にはヤツはいないのです。)
しかしこういった些細なことには動じない、堂々とした行動をとれる人間に、私はなりたい。つくづくそう思った。