歴史の解釈 for the Art(s)。

doubtmusicのジャケットのデザインを全て担当してくれている佐々木暁。今回の「ラ・グリマ」で相当お世話になっているjinya discの斉藤安則。improvised Music from Japanの鈴木美幸。夕刻に電話で大討論会。といっても私が各々に相談し、3人が私の相談に乗ってくれた形になる。だから討論「会」ではなく対話の集積。その内容とは
高柳昌行の"New Direction for the Arts"の"Arts"は複数形で正しいのか。
私は幻野祭の演奏の前に高柳氏が「ニュー・ディレクション・フォー・ジ・アート」(正確には「ザ・アート」とアナウンスしている。)と言っているのでてっきり単数形だと思って、ジャケットやライナーの文字を全て単数形にした。そして昨日ふと心配になって文献をあさると文献上では全て複数形で記載されている。本人が書いたライナー然り、「インスピレイション&パワー」然り、汎音楽論集のディスコグラフィーや年譜然り。ただ唯一MCだけが単数形だ。どちらが正しいのか。多分複数形が正しいのだろう。それは後年高柳自身が様々なところで"Arts"と複数形を用いているし、英語の文法上では art は一般的に複数形には the を付けるが単数形には付けないらしい。もちろん付けても誤りではないが、それは指し示すものが限定的になるらしい。
幻野祭での演奏は1971年8月14日。New Direction for the Art(s)の結成(命名)は同年6月とされている。「ラ・グリマ」はNew Direction for the Art(s)名義の初の録音物である。"New Direction (Unit)"と"New Direction for the Art(s)"を隔てる音楽上の目的、もしくは意図するところは何だったのだろうか。これは高柳本人にしか分からないことである。そしてそれをわれわれが予測しても云々語ってもそれは全く無意味なことである。本人亡き後、その確認もままならない。
(1)本人が後年複数形を使用して執筆しているからという理由でアナウンスが単数形であることは無視できない。(2)逆に本人が後年複数形にしているのだからアナウンスは単なる間違いなのだろうと考えることも出来る。
3人との相談の上、結論を出した。単数形にしよう、と。理由は以下である。
複数形を用いたのはあくまで後年のことであり、1971年8月14日の時点では単数形であった。それはアナウンスという録音物の証拠による。「アナウンスは単なる間違い」であると予測するのは、あくまでわれわれの予測であり本人に確認が取れない以上、アナウンスをそのままの状態で受け入れるしかないであろうということ。たとえそれが後年本人によって訂正されたとしても、だ。つまりアナウンスを無視してわれわれが勝手に"Arts"と命名するのは(少し大げさだが)歴史をちょっとだけ改竄することになるだろう、ということ。逆に言えばわれわれが歴史を改竄している可能性もある。つまりこれは解釈の問題なのだ。以上の理由により、1971年8月14日高柳昌行、森剣治、山崎弘のトリオによって演奏された録音物は"New Direction for the Art"(単数形)の演奏であった。(そしてその後複数形になった。)日本語表記は「ニュー・ディレクション・フォー・ジ・アート」である。高柳が「ニュー・デレクション・フォー・ザ・アート」と言っているのだからそう表記すべきではないのか、とかいう訳の分からないヤツは無視しておく。屁理屈をいいたがるヤツのために先んじてこれも一言加えておく。
そういうわけでちょっと混乱を招くかもしれないが、そのような歴史解釈に基づくものなので、理解のほどをお願いいたします。それにしても充実した対話をしたなーと思った。佐々木くん、斉藤さん、鈴木さん、ホントにありがとう!