マツ・グスタフソン 雑感。

マツ・グスタフソンが来日していて各々ピットインとアサヒ・アート・スクエアでライブをやるというので見に行った。
14日(金)@新宿ピットイン w/大友良英(g)、ジム・オルーク(g)、Yoshimi(vo)、Lotta Melin(dance, theremin)。
ファーストセットはマツと各々のデュエットが中心。それにしてもマツのバリトンの音圧は本当にスゴい。アタック音が鋭く、吹っ飛ばされそうな勢いのあるスピードと圧力。こんな音圧のサックス奏者は他に何人も居ないだろう。特に印象に残ったのが(やはり私好みの)ソロ。起承転結とかソロの展開とか、そういった既成のいわゆる「ジャズの」サックス・ソロとは全く発想が違う。私は起承転結のある音楽ももちろん好きだがこういった発想の全く違う演奏もとても面白がれるので幸せな性格なのだろう。とにかくマツのソロは次の展開を小賢しく計算するものとは全く違って聴こえる。突然フリーキーな音を出したかと思うと突然かすかな息で(時にはマウスピースから口を離して)サックスをコントロールする。終わり方も全然予想外の部分で、この時のソロもふと突然サックスを置いて終了だった。笑ったよ。ある程度即興音楽を聴いている人なら、ここで終わりだろ、みたいな部分がおおよそ予想がつくと思うのだがそれを思い切り覆される。これは私にとってとても面白い出来事だ。そして改めてマツの即興に対する発想の違いが認識できる。そんなこと今頃言ってもしょーもないことではあるが。そして大友、もしくはジムとのデュオではマツのマチズモが全開になる。これは多くのファンが期待するところであることは十分に理解できる。そしてそれは多くのオーディエンスに満足感を与えてくれる。ところがYoshimiが演奏に加わると事態は一変するのだった。ヴォイスの力なのか。ノイジーな3人がまるでYoshimiの声の引力に引っ張られているようだ。どんなノイジーな音を出してもYoshimiの天然で突き抜けたヴォイスの強さにかなわないのだった。構図としてはYoshimiのヴォイスの引き立て役として男3人がフィジカルに演奏している、といった風。その感じは"Another Silence"で更に明確になる。ロッタのダンスはとても良かった。普段ダンスを見ると私は個人的に痛々しさを感じたりするのがほとんどなのだがロッタのダンスはしなやかで、手足の一本一本がまるで独立している生物のよう。かなり面白かった。そのダンスに合わせるYoshimiのヴォイスも恐ろしくハマってた。
15日(土)@アサヒ・アート・スクエア Another Silence(マツ・グスタフソン、大友良英Sachiko M、Yoshimi、AyA、ロッタ・メリン、guest : UA)。
で、フィジカルに演奏するノイジーな野郎がヴォイスの引き立て役になるの図。は本日更に面白く展開した。アナザー・サイレンスというユニットは男2人に女4人だ。しかも今日はそこに更にUAがヴォイスで加わった。何を目指しているのか。最初はYoshimiとUAのヴォイスのデュオから始まった。ほとんどマイクを通さないナマ音状態で、このナマの二人のヴォイスが今日の演奏をほぼ決定した、といっても構わないだろう。これがマツのアナザー・サイレンスの意図だったのだ、きっと。(本人に訊けば良かったかな? でもそれを訊いて批評を書くのはルール違反でしょ?)演奏は一人一人が加わったり離れたりして、結局ワンセット一曲という長尺の演奏になり、途中もちろん様々なヴォキャブラリの演奏が出来するわけだが、なんといっても女性たちの演奏が完全にこのユニットのヘゲモニーを握っていたのは確かである。マツの激しいバリトン・ソロとか大友のノイジーなフィードバックギターを期待する向きには、期待はずれだったかも知れない。二人の音はもちろん独立して響いていたし「グループのサウンドを作り上げる」モメントとして大きく作用していたことに間違いはない。しかしやはり全体のサウンドを導いていたのはYoshimiやUAのヴォイスであり、さっちゃんの発信音であり、AyAの低音であり、ロッタのダンスやテルミンの音だった。女性の出す音はなんと凄まじく、美しく、驚くべき感性なのだろうか。大友やマツは同性として、なんとなく分かり合える部分があるのだけれど、こういった女性の感性は全くこちらの意図したことと別の部分に作用する。これは多分一緒に演奏してて、大友もマツもかなり面白かったに違いない。そして苦労したに違いないのだ。明日は大阪で山本精一が加わるとのこと。これも是非見てみたい。

行こうかなー。大阪まで行って一泊して帰ってきたりすると格安で25,000くらいかー。ちょっとツライな。

ちなみに土曜日はZAKがPAをやってた。まさかZAKが来ているとは思わなかったのでちょこちょこと打ち合わせめいた話も。CDもマツが持ってきたものを中心に二日間とも良い売り上げでした。皆さんありがとうございました。そして出演・関係者の皆さんお疲れさまでした。