万引きについて。

金がない。ものすごく貧乏だ。このご時世CDの売上に暗雲が立ちこめ、それでもレーベルを維持して行くのは至難の業だ。万引きのひとつでもやらかしたろかい、とネガティブな考えもちらほら浮かんで来さえする。万引きと言えば人生考えてしまうようなものすごく暗く悲しい思い出があり、それが私の万引きに歯止めをかけている(高校生みたいですが・笑)。
20年くらい前、ディスクユニオンに勤めていた時、おっさんの万引きを店内で捕まえた。小中高生ならまだしもおっさんなので「警察行くか。コラ。」などと脅したら、おっさん「それだけは勘弁してください。」と、店内で土下座した。お客さんとか大勢いるのに。オレは心の中で「ありゃりゃ、もうめんどくさい、警察行ったら行ったで調書書かされるのに死ぬほど時間がかかるし、どうしよかな、あ〜めんどくさい」と思ったその時、オレの後ろから小学生の女の子が「おとうさん、どうしたの?」とそのおっさんに話しかけた。娘連れで来てこのおっさん万引きしたのだ。何より可哀想なのはその女の子であり、その女の子の無垢なその声と言葉にオレはズーンと沈み込んで、結局その女の子には悟られないようにおっさんを見逃してやった。おっさん、オレはテメエが娘の前でやらかしたルール違反は一生忘れることはないぜ。親ならば娘の前で土下座するような恥ずかしい行為は慎め。万引きするなら一人で来店した時にやれや! と思ったのだった。その子ももう30歳くらいになっているだろう。この一件がどのように彼女の人生に影響を及ぼしているのだろう。それともおっさんはその時に自分のした行為をごまかすようなことを帰りしなに彼女に話したのだろうか。思い出すだけでオレの心は重くなる。
もう一件、万引きを通したイジメ発覚について。中学生の万引きを捕まえたらどうにも気の弱い子でらちがあかず、親を呼び出した。親がその子を引き取りに来たので一件落着と思いきや、数日後、その子の親が再び来店し「どうやらうちの子はイジメにあっており、万引きをさせられたらしい」とのこと。そのお母さんは非常に実直な方で、何度も息子の万引きに関して丁寧に謝罪されこちらが恐縮するほどであった。仲間に脅されいじめられて万引きせざるを得なかったその子とそのお母さんの心境を想像するとまたまた心がズーンと落ち込むと同時に、それをやらせたくそガキどもとその親たち、そしてその学校の担任に対し激しい怒りが込み上げてくるが、これを表沙汰にするのはオレの役割ではないだろう。やり場のない怒りに数日間は悶々とした日々を送ったことをよく覚えている。
あと、大学生がLPを万引きしたのを捕まえてバックルームに連れて行って色々問い詰めたがエラそうに黙秘していたのでブチ切れてボコボコにしたこととか。「エラそうに口から血ぃ出しやがって」とかわけのわからないことを叫びながらボコった。(お店の人に忠告。これはやめた方がいいです。訴えられたら必ずこちらが負けます。)その万引き商品はまだ覚えている。ブルーノートのハービー・ニコルス「プロフェティック」という2LPセット(2枚組ではない)。エラそうにオレもまだ聴いたことがないハービー・ニコルスなんか万引きしやがってという、嫉妬、みたいな感情も暴力的な行為に拍車をかけた可能性もなきにしもあらず。
まだまだ書けるが、いずれにせよ万引きに関してはひとつも良い思い出はない。まぁある方がおかしいのだが。