フリクションの新曲。

21日はフリクションを観に行った。訳あって2時頃〜6時半頃まで渋谷にて暇をつぶさざるを得ないはめになり、路頭に迷う形になった。渋谷という街はホントに馴染めない。女はつるっとした顔ばかりだし、男は一様にうつろな目をしている。なんなんだろうこの街に来る人々は。小洒落たスーツにだら〜んと下げた名刺大の名札。IT系の社員か? デカい声を張り上げて笑う時にパンパンパンと手を叩きながら歩く女二人連れ。Bボーイを気取った脳天気なガキども...。ほとんどの人々がクソッタレである。それでもレコファンに行ったり古本屋に行ったりカフェで本読んだりしながら時間をつぶす。開場寸前になってS崎から電話があり、30分押すのと情報を得て、しょーがないので二人で近くの立ち呑み屋でビールを呑んでからクアトロに行った。
満員。息苦しい。
フリクションのライブは新曲2曲という、待ちに待った展開であった。しかしその新曲に、昔ほどの衝撃を受けなかったのは、オレが歳とったせいなのか? それとも歌詞がうまく聴き取れなかったせいなのか? PAに問題があるのではなかった。PAは過去のクアトロではあり得ないほどいい音で鳴っていたと思う(ちなみにPAはZAK)。つまりは演奏に乗って歌詞が吐かれる、その密度の問題なのであった。80年代〜90年代フリクションのライブでの新曲はGapping、Heavy Cut、High Life、Bad Luck などに顕著な、リフと歌詞がほぼ交互にシークェンスされるケース、もしくは演奏がブレイクしてコトバのみがリズムを担うケース、つまり演奏のスカスカ感がコトバに強烈な印象を与えていた部分が少なからずあった。ライブですべての歌詞は聴き取れないが、そのスカスカ感のおかげで一部のコトバはライブでも明確に聴こえていて「目から鱗」「ヘヴィー・カット」「何色 何型」などなどの歌詞はCDが発売される前から強烈な印象で頭に残っていたのだ。
しかしいまのフリクションの新曲はそういったタイプの曲ではない。ジョン・ケイルは『追憶の雨の日々』のライナーで、ふたつの唄のタイプを自己分析してみせた。曰く「オリジナル・アレンジと分ち難く結びつきすぎているという理由で、バンドがなければ成立しないと思われたような曲が、実際にその姿を変えてゆき、その一方で、そうではない曲は、“うた”自身のインパクトを拠り所として、劇的に成長していった。そこで語られていることを、さらに明確にしつつ...。アレンジの単純化によって、レコーディングとパフォーマンスの関係が、解体されていったのである。」(『追憶と雨の日々』ライナーより。伊藤英嗣訳←多分)
レックは同じ曲を、アレンジを変え、編成を変え、執拗に何度も何度も演奏し歌ってきた。新曲も何度も演奏し歌っているうちにそれは姿を変えてゆくだろうと思われる。その暫定的な完成をみるのがレコードなり、CDなりといった作品であるとするならば、それはまだまだ先のような気もする。誤解しないでいただきたいのだが、新曲の完成度が低かったと言っているわけではなく、過去のフリクションの新曲の経緯からすると、そのように思わざるを得ないのである。
ベースとドラム、つまりリズム隊のみという最もシンプルな編成でフリクションを名乗ったとき、レックは果たしてヴォーカリゼイションに関してどのように考えていたのだろうか。この興味は尽きない。私は歌詞のある、つまり歌のある音楽を聴くときはまず言葉よりも音を優先的に聴いているような気がするのだが、フリクションだけは違っていて、ファースト・インパクトはコトバなのだった。もちろん音も鋼の如きロックであるのだが、歌詞のコトバはそれをすら凌駕するとオレに感じさせるフリクションの「音の作り全体」はやはりちょっと特殊なのである。だからジョン・ケイルの言う後者のうたの成長の可能性に期待したいのである。発せられるコトバの明確化...。
というのは、まぁ頑張って冷静に考えた上でのことで、以前ほど新曲に衝撃を受けなかったオレの事情は、やはり以前よりフリクションが身近になったことによるような気もする。そう思うとレックとか達ちゃんとか、知り合いにならなきゃ良かったな、なんてことも考えたりしてちょっと寂しくなってしまうのである。単なる脳天気ないちフリクション・ファンであり続ける方がよっぽどインパクトが大きいような気がするのだ。
閑話休題
PAが良かったこともあって、ライブは全体的に非常にノリも良く、素晴らしかった。達ちゃんが最も嬉しそうに叩いてたCycle Dance、リフは変わらずともリズムのバーが倍になったBreak Neck、そして熱狂をクールダウンさせたNo Thrillなどが特に印象に残る。アンコール2度目のZone Tripper は、なにか「レックそのもの」「フリクションそのもの」を見せつけられているようで、圧倒的だった。
帰りはKくんとU川さんと3人で開場前の立ち呑み屋で。気がつくと終電逃し。ヤケになって2時半まで呑み続けた。