印象に残るライブ二本。

16日(日)。ボロット・バイルシェフ w/巻上公一梅津和時長須与佳@両国シアターX(カイ)。
去年横浜でボロットさんの歌を聴いた時も、その音量といいたゆたうような流れといいミニマル的に奏でられるトプシュールといい、あまりにも気持ちよすぎて眠ったのだが、今年も眠った。そこに歌が自然と存在するような、存在すること自体が意識されないような、そんな歌。けれども時間感覚を狂わせる存在感は凛として、ある。目を覚ましたのは梅津さんと巻上さんの即興。この音楽はボロットさんの歌とは正反対の強度を持っている。こういった全く異なる時間感覚や強度を持つ音たちがぶつかり合って音楽を作り出すのは奇跡とも言えるだろう。素晴らしい音楽だった。長須さんの琵琶も、一音で空気を変える存在感であり、4人のエイジアンが奏でるアジアの音は、やはり私もアジア人なのだと再認識させるにはあまりにも現代的でありアジアを超えていたように思う。新しいものは伝統をないがしろにして作られるものではなく、むしろ伝統を重んじて初めて新しいものと向き合うことが出来る。
物販担当はノイズ合唱団のウィリアムくん。口琴はじめ飛ぶように売れて、私と配偶者と多田さんもヘルパーに。清算はウィリアムくん一人でやっていたが、金銭誤差は出なかったのだろうか。それだけがちょっと心配。
18日(火)芳垣安洋高良久美子曽我大穂、ササキヒデアキ@新宿ピットイン。
1stセットはアニキのパーカッション・ソロ。2ndセットは4人で。アニキの多彩なパーカッション使いは、各々のグループでちらちらと顔を見せるものの、今日ほどその多彩さを吐き出した日もないだろう。私の知る限り。とにかく素晴らしかったですよ。世界中のパーカッションを駆使してある時はアフリカ、ある時はアジア、またある時はカリブ、血が乗り移ったように叩かれ、愛撫される楽器たち。アニキの頭の中のストーリー進行で、いじられる楽器がじゃんじゃん変わってゆく。微細な音にまで神経を研ぎすまし、ランダムな変化のようでいて、実は聴こえないビートが延々と一本の線でつながっている、そんな1stセットのソロ。
2ndセットがまた素晴らしかった。曽我大穂さんのこれまた多彩な楽器群。ウクレレ、ハーモニカ、スティールパン、パーカッションなどなど。ウクレレの音はダルシマーの音に聴こえた。高良さんのヴァイブを中心としたパーカッションも、アニキとはまた違う味わいで、楽しいし、その3人の演奏への想像力をかき立てるようなササキヒデアキの抽象的で反復する映像も、実に私好みなのである。あまり使いたくはない言葉だが、とても美しい音楽と映像だった。そうとしか言えない私の語彙力にも問題があるけど、あれを美しいと言わずしてどれを美しいというのか。延々と聴いていたい音楽だったし、素晴らしく張りつめた演奏だったと思う。ホント、久しぶりにこんないい音楽聴かせてもらったよ。
ササキヒデアキと会うのは5年ぶりくらいか。5年くらい前に会った時は「10年ぶりくらいだよな」とお互い言っていた。ササキはオレがディスクユニオンを辞めたことすら知らなかったらしい。「なんせ福生に引きこもってるからね。」でも、元気そうで、何より。